ワクチンを問う 

 

ワクチン予備知識
参考−動物の免疫(immunity)
アジュバンドとは?(秘めた危険性)
ワクチンにより全ての予防が出来るか
猫のウイルスワクチンQ&A総集編−生ワクチンと不活化ワクチンの安全性−
より自然に近い医療を
ワクチンと近年の猫の疾患との関連性
ワクチンプログラム(外国と日本)
わかりにくかった方へ−簡単解説


「ワクチン予備知識」

ワクチンとは?

病原体に科学的・物理的な方法で処理をし、抗原性(免疫体を作り出す性質)を残したままで動物に接種し、人工的に免疫を造り、感染病の予防を目的とする製剤をワクチンと言います。
又、ワクチンには「混合ワクチン」が有りますが、1回の接種で2種類以上の病気を予防出来る利点があり、単独接種より混合する事で免疫体の生産が良好になるものだけが本来用いられます。混合する事によって免疫体をつくる力が低下するものについては、この方法は用いられません。


ワクチンは次の3種類に大きく分かれます。

1.生ワクチン(弱毒ワクチン)
ウイルス(病原体)の弱いもの、或いは人工的に弱めたもので、ウイルス(病原体)は、生きたまま使われます。
2.不活化ワクチン(死菌ワクチン)
ウイルス(病原体)を、熱、紫外線、科学薬剤などで、死滅させて病原性を無くした製剤です。
(つまり死んだウイルスを接種して抗体を作らせるワクチンです。)
3.トキソイド(変性毒素)
ウイルス(病原体)が作り出す、毒素を持つ病原性(病気を引き起こす性質)に、科学薬品などを加え、
抗原性(免疫体を作り出す性質)を変化させる事無く毒素の毒性を減少させた製剤です。
(現在使用されている犬猫のワクチンでは"トキソイド"はありません)



「参考−動物の免疫(animal immunology)」

動物の免疫は大きくわけて2つのタイプがあります。

1.生まれつき自然に備わった、微生物などの病原体に対する生体防御力となる「自然抵抗性」
或いは「先天性免疫」
2.個体が生後何らかの病原体の感染により(後天的に)初めて獲得した「獲得抵抗性」の免疫

これらの免疫系はおのおの役割を持っていて、1つ目の「自然抵抗性・先天性免疫」は、個体が何らかの病原体(ウイルス)に感染した時、最初に病原体と戦う防御系の免疫機構であり、この防衛線が異物である病原体に突破されると(やっつけられると)、2つ目の免疫機構である「獲得抵抗性」が発動し病原体と戦います。
そして、この2つ目の「獲得免疫系」は、高度に進化した脊椎動物では記憶として残り、その後同一の病原体に対しては、極めて効率的にまた極めて特異的に対抗出来る特徴を持っています。

脊椎動物の「獲得免疫」の中には、細胞性免疫と呼ばれる「防御因子」が有り、その防御因子は血清中の「タンパク分画」の中にある「ガンマ」という内に含まれます。この「防御因子」にも2種類あります。

1.病原体と効率的、特異的に結合し免疫反応を発揮する「可溶性因子」(抗体)
2.体内の器官で成熟成長した抗体生産を調整したり、ウイルス感染細胞や癌細胞を効率的特異的に攻撃し戦う
「細胞性因子」(Tリンパ球)

この因子達が、病原体と戦うのです。



「アジュバンドとは?(秘めた危険性)」

*免疫系の専門用語が文中に多く出て参ります。より理解するためにも、先出の「参考−動物の免疫」をお読み下さい。

アジュバンドって何?
〔アジュバント〕(ad-juvant)=免疫助成剤(不活化ワクチンに使われる)アジュバントとは、生体内に抗原(死菌)を投与する場合、一緒に投与して抗原に対する細胞性免疫や抗体生産を増強したり、長時間留まらせたりという役割を果たしています。
死んだウイルスの菌を接種する不活化ワクチンの場合、生きたウイルスが入った場合と同じようにする役目のものが必要になります。それがアジュバンドです。つまり、死んだウイルスを体内に導く「運びや」兼、細胞にくっつかせる「接着剤」みたいなものと思えば分かりやすいと思います。
アジュバントは死菌に混合する際、慎重に選択しなければなりません。この選択が不適切であると強い副反応を引き起こします。生きたウイルスを接種する「生ワクチン」であれば当然アジュバンドは必要ありません。

アジュバントの利点
「抗原」を長時間とどまらせたり、接触する表面積を増やして「抗原」と「マクロファージやリンパ球(抗体生産の役割を持っている、免疫機構)」との接触・相互作用のチャンスを高めます。

アジュバントのリスク
ワクチンとアジュバントの相性(種類の選択)を間違えると、アジュバント病という、アレルギー4型が個体に症状として現れます。
また、細胞性免疫(防御因子)に抗原の取り込みを促進する為、抗原が浸潤するようにわざと接種部位に炎症を起こさすので、その為、線維肉腫(しこり)が出来やすいのです。 


アジュバントの種類
1.沈降性タイプ−−−病原体や、ある抗原を吸着する性質
★沈降性のアジュバント類−−−・水酸化ナトリウム ・水酸化アルミニウム ・リン酸カルシウム ・リン酸アルミニウム ・ミョウバン ・ペペス ・カルボキシビニルポリマー 等
★沈降性アジュバントの利点とリスク−−−病原体やある抗原を吸着し、接種局所病原体を固定する利点もありますが、その性質の為、接種部位が硬結しやすいです。(しこり)

2.油性タイプ−−−油が抗原水溶液を包んで乳濁液にする性質
★油性のアジュバント類−−−・流動パラフィン ・ラノリン ・フロイント 等
★油性アジュバントの利点とリスク−−−油が抗原水溶液を包んで乳濁液にする為、どろっとした液体になり接種時に疼痛が起きる。粘りの為液体が体内に散りにくく、そのまま接種部位に残る性質も持ち合わせており硬結する事があります。(しこり)

アジュバントの危険性
アジュバントとは死菌を体に入れる際、免疫を助成する化学製剤です。性質は大きく分けて2つに分類されますが、どちらもサラサラの液状ではなく、1つは死菌を油で包み込むオイルタイプともう一つは死菌に染み込み沈殿させるタイプです。このアジュバントが体の中に入ると、生きても居ない大型の異物に対し様々な反応が起こります。その反応の中で肉腫形成を示唆されるものがあります。それはこの大型の異物が体内に分散して広がっていくのを阻止し封じ込めようとする体の包囲化作用の働きによるもので、これがかえって肉腫を形成させてしまうというものです。そしてこの肉腫形成は、1部の個体の中には慢性肉芽腫症という疾患をもたらす結果にもなっています。この様に、異物でしかも大型の物を生体内に入れ、馴染ませようとする事にはかなりの無理を伴っているとも言え、これらアジュバンドによる発癌性を指摘する声もあるようです。



「ワクチンにより全ての予防が出来るか?」

従来、日本の雑種猫達は、自然淘汰の中で、強い遺伝子を持ったものだけが生き残り、その土地のウイルスに強い抵抗力と生命力を養ってきました。しかし、その逆に人工的に繁殖された個体は、母体から受け継がれる「移行抗体」が元来弱く、特に伝染病に弱かった為、ワクチンは必要不可欠な物として普及して来たのです。海外からの輸入動物が持ち込んだウイルスの蔓延や、日本の飼育環境の変化や密度などの色々な現状から、伝染病の罹患率(病気にかかる率)は近年急上昇してきており、感染率を下げる為には、現在ワクチンがもっとも確実な手段になっています。
ワクチンを打って副作用により死亡する犬猫より、ワクチンを打たなかったために病気に感染し死亡する犬猫の方が圧倒的に多いのです。ですから感染症から守るためにもワクチンは必要です。
しかし厳密に言うと、ワクチンを接種すれば必ず病気を予防出来るものではありません。何故かというと、個体により差があるからです。殆どの個体はそのワクチンにより入れられた病原体(ウイルス)に対し、自分の力で抗体(以後同一の病原体を認識し対抗出来る免疫力)を作り出す能力を持っています。しかし、ごく一部の個体は、その子の体の中の免疫機能に問題があり、ある一つのウイルスに対してだけ免疫反応が起きない場合や(一種の免疫不全)、他に比べかなりゆっくりしたペースで抗体を作る個体もいます。また長い期間抗体価をとどめる事の出来ない(ワクチンの効果が続かない)個体も居ます。その上ワクチンに含まれる力価(効力)は各ワクチンによりまちまちで、これらのことからも全ての予防を100%期待することは出来ません。ですからその子の免疫能力の有無、また強弱によって追加接種の時期や打つワクチンの種類を各々の状態に合わせ決めていくべきかもしれません。しかし、基本的には一度でもワクチン接種を受けていれば、充分な効果が期待出来ないまでも、初めてそのウイルスに感染するよりもずっと軽症で済みます。よくワクチンを打っていたのに病気になったという飼い主さんがおられますが、「ワクチンを打っていたのに病気になった」のでは無く「ワクチンを打っていたから死なずにすんだ」という事を忘れ無いで欲しいと思います。



「猫のウィルスワクチンQ&A総集編〜生ワクチンと不活化ワクチンの安全性〜」

ワクチン接種及び追加接種について調査を進めて行く内に、いくつかの疑問点が出て参りました。
そこで昆虫から人間に至るまで全ての免疫学を深究され権威であらせられる、埼玉医科大学短期大学免疫学教授・和合 治久教授に、私共が不明に感じていた事を、免疫学的観点から、猫のウイルス感染症に対して猫の生体防御機構のお話を伺いました。以下対話方式で掲載させて頂きます。

Q:現在1年毎の追加接種が基準とされていますが、ワクチンにより獲得した抗体を得ているのに追加接種の必要性があるのでしょうか?

A:猫の3種のウイルス感染を防御する上で追加免疫して、特異抗体生産系キラーTリンパ球誘導促進をより効果的に図っているものと考えられます。一般的には終生免疫が持続するのがベストですが、猫3種混合ワクチンの病原体は全てウイルスであります。ウイルス特異抗体生産がワクチン接種後によって誘導されれば、その抗体を生産するBリンパ球も誘導され、それが記憶細胞と成り、生涯に渡り免疫が持続するのが安易に想像されると思います。また猫のウイルス感染防御機構の中には、特異抗体以外に、ウイルス感染細胞を特異的に攻撃するキラーTリンパ球の存在も重要であり、この細胞の活性を持続させる上では、追加免疫が一般的であります。したがって、この3種のウイルス感染を防御する上で追加免疫して、特異抗体生産系キラーTリンパ球誘導促進をより効果的に図っているものと考えられます。
ウイルスの抗原性が変異しやすいとしたら、これは追加接種と呼べませんが、毎年接種しなければ感染防御特異抗体やキラーTリンパ球は生産されません。

Q:ワクチンにより一度獲得した抗体価が何故下がるのでしょうか?

A:哺乳動物の生態系は、人間も猫もそうですが、同一抗原侵入・刺激が長い間ありませんと、抗体を作る記憶Bリンパ球系の機能が落ちて参ります。しかし、同一抗原が再侵入しますと、クロ―ナルな芽球化が生じて、抗原を記憶していた1個のBリンパ球が数百倍に増加して、特異抗体を合成・分泌するようになります。

Q:抗体価が下がっていない猫に対し接種する事は、強い副反応を引き起こす原因になりかねないのではないでしょうか?

A:確かに抗体価が下がっていない場合には、アレルギ―(取り分け即時型のアナフィラキシ―とか免疫複合体病など)がワクチン接種によって生じる可能性があります。したがって、ワクチン再接種の時に、このウイルスに対する抗体(特にIgEとIgG抗体)がどの程度、猫血清中に残存しているのか、をチェックしておく事が望ましいと思います。

Q:抗体価が下がる一つの要因として、記憶した免疫細胞が損傷をうけるとされていますが個体差にもより、又、抗体価の持続期間も個体差により、違うのではないでしょうか?

A:抗体の増減の程度や持続性は個体差があります。抗体価というのは再度の同一抗原刺激がありませんと、自然と減少するものです。この理由は抗体生産細胞であり、抗原を記憶したBリンパ球数が寿命の為に減少する為です。そして一部が記憶細胞として分裂を繰り返しながら、第2リンパ器官(リンパ節や脾臓)に残存し続ける訳です。

Q:ワクチンにおける死菌の利点とは?

A:ワクチンにおける死菌の利点ですが、一般的に加熱あるいはホルマリン等の薬品で死滅させた病原体で抗原性のみ存在するものを不活化あるいは死菌ワクチンと呼んでおります。この死菌ワクチンは特異抗体が感染防御に有効な場合には大変効果的ですが、細胞性免疫(Tリンパ球)が主役を演じるような感染症(人ですと、結核菌、ある種のウイルス)では有効ではない場合が多いようです。この意味で死菌をワクチンに用いる場合は、その微生物に対する感染への対抗手段に特異抗体が重要であると考えられます。

Q:基本的に弱毒ワクチンか不活化ワクチンかどちらの方が良いのでしょうか?

A:細胞性免疫に関与するTリンパ球が感染防御に役割を果す病原体に対しては、弱毒生ワクチンが効果的ですし、特異抗体が役割を果す場合には、不活化ワクチンが効果的という事になります。

Q:アジュバントが引き起こす問題点として、特に沈降性の性質を持つものは肉腫が出来やすいと考えておりますが?

A:アジュバントは免疫増強作用のあるもので、一般的には、抗体生産とTリンパ球依存の細胞性免疫の両方を非特異的に増強する完全アジュバントが良く用いられます。しかし、この種類の選択を間違えるとアジュバント病といって、アレルギ―4型が出現し注入部位に炎症が出たり、肉芽種が形成されたりします。この意味で、死菌に混合するアジュバントが不適切であると、副作用が強く出て参りますので注意が必要です。お魚でも魚病予防の為に接種するアジュバントを混合すると臓器の融合や奇形が生じる事が報告されていますので、使用にあたっては慎重でなければなりません。発熱・関節痛・ブドウ膜炎・尿道炎など、人間でも発生します。

Q:副反応の良く出るワクチンは、強い何か(問題物質のようなもの)を持っていると考えて宜しいのでしょうか?

A:副作用の問題ですが、弱毒ワクチンの場合には、一般的に、病原体がまだ残存して、その微生物感染と同じ症状が出てしまうケースがありますし、死菌ワクチンの場合には、特に混入するアジュバントの作用で副作用が強く出てしまうケースが考えられます。副作用での高熱、シコリ、ムーンフェイスによる歯茎の腫れ、等は、混合しているアジュバントの選択に問題があるものと想像しています。

Q:より感染症を防ぐ為に新しいワクチンは出てきますが、どういった所から改良されるのでしょうか?

A:ワクチン接種の異議は「感染2度なし」現象を誘導する事です。この意味で本物の病原体が侵入しても、それを攻撃できる免疫応答を備えておく事が重要でこれを達成するためにワクチンを開発していく訳です。微生物には同じ菌でも病原性や抗原性が異なる菌株が数多く存在します。したがってより効果的なワクチンを開発するというのは、実験を通し、感染症2度なし現象にもっとも貢献する菌株を用いて開発する事を意味しております。



Q&A総解説
〔弱毒ワクチン(生ワクチン)〕」とは、病原体(ウイルス)の病原性(病気を引き起こす性質)を弱らせた生きたウイルスを感染させ抗体を作らせるワクチンです。
〔死菌ワクチン(不活化ワクチン)〕とは、病原体(ウイルス)を熱・紫外線・化学製剤等で死滅させ、病原性(病気を引き起こす性質)を無くしたものを個体に感染させて抗体を得るワクチンです。
医学的な理論では、「生ワク」は危険性が高いが、効き目がつよく長持ちすると言われ、「不活化ワクチン」は安全性が高いが、効き目が弱く長持ちしないと言われています。
和合先生のご説明通り、弱毒(生)ワクチンと死菌(不活化)ワクチンには、それぞれ長所と短所があります。
個体差にはよるものの、弱毒ワクチンは、生体を守ってくれるデイフェンス細胞を獲得しやすいかわりに、ごく一部のうまく抗体を得られなかった個体に対し、ワクチンウイルス感染症を発症する事もあります。
死菌ワクチンは、病原性をなくしているので発症はしにくいものの混入するアジュバントがかなり問題の部分でもあります。アジュバントと死菌ワクチンの相性の選択を間違うとアレルギ―4型というアジュバント病になる危険性があると思われます。
我々は決して死菌ワクチンが悪いと言っている訳ではありませんが、死菌ワクチン販売会社の提示の中にも硬結反応の事は明示されていますが、掘り下げていくと大丈夫な範囲の副反応では無く、これはれっきとした出てはいけない副反応だと感じました。
ワクチン製造元もこの事は充分承知の上で、一日も早くアジュバントと死菌の混合による起きるリスクを下げようと日々努力はされておられますが、今の現状では副反応リスクの報告はアジュバント混入死菌ワクチンにの方が弱毒ワクチンより多いのが現状です。
理論上では生ワクチンが主である(*下記参照)猫3種混合ワクチン「パナゲンFVR C−P」よりも不活化である新ワクチン「フェロ○○○○○」の方が安全であるとされていますが、「パナゲン」の安全性は比較的高いものです。勿論ワクチンによる副反応の有り無しは個体差にもより「パナゲン」の接種で体調を崩す個体がない訳ではありませんでしたが、その安全性に多くの獣医師や飼い主が信頼を寄せる存在でありました。信頼を寄せる理由の一つとして、3種の中の1種に不活化ワクチンが使われていますが(他の2種は生ワクチン使用)これにはアジュバントは使用されていないという事が挙げられます。これが「パナゲン」の大きな特徴であり利点でもあります。
(他の不活化ワクチンは全てアジュバントが入っています。)
その逆に不活化である新ワクチンは、接種後、発熱などの他、歯が抜けたり、しこりが出来たりというアレルギー症状を出す猫も出ており、他の「不活化ワクチン」でも致命的な疾患にかかった個体が少なくありません。
このような事から、理論と実践が必ずしも一致しないということが分かります。
弱毒ワクチンの利点とリスク、アジュバント混入死菌ワクチンの利点とリスク、この事を充分踏まえた上でその子に一番あったワクチンを選んであげて頂きたいと願っております。

*(参照)「パナゲンFVR C−P」の3種内訳
弱毒菌(生)=猫伝染性呼吸器感染症・ヘルペスウイルス(FVR)・カリシウイルス(FCR)
死菌(不活化)=猫汎白血球減少症『猫伝染性腸炎』(FPL)



「より自然に近い医療を」

動物の本能は子孫を残す事にあります。子孫を残す為には、自然界の様々な天敵から自分の身を守らなければなりません。動物達はどうすれば効率的に特異的に天敵と戦い身を守る事が出来るかを長い歴史の中で学び進化し続けてきました。ウイルスも動物にとって天敵ではありますが、そのウイルスも生体の細胞の中でしか生きる事が出来ない微生物です。そのウイルスは宿主となる生体を探し、寄生する訳ですが宿主となった動物は自分の身を守るためにありとあらゆる方法でウイルスを防御します。それが免疫です。進化の中で脈々と受け継がれてきたこの免疫が、動物が生まれつき持っている自然抵抗性や先天性免疫というものです。
ウイルスも自分が生き残る為に必死で抵抗します。しかし、第一段階の免疫機構である先天性免疫を突破しても、次なる免疫機構が待ち受けていて、さらなるウイルスの侵入に数々の防御系細胞性免疫(ウイルスの攻撃を防ぎ守る免疫)がウイルスと戦い、その戦いに勝つ事により動物は自分が生き残る為の抗体を得るのです。それが、獲得抵抗性と呼ばれる抗体(後天性免疫)であります。そしてこの抗体はリンパ球(感作リンパ球)という防御因子(ウイルスから身を守るための記憶)となりそのウイルスを記憶し、その後同一のウイルスが侵入してきたら特異的にウイルスを認識し結合して免疫反応を発揮するという能力を持っています。
こうして、ウイルスに勝ち残った動物は子孫繁栄の為の強い遺伝子を持つ個体となります。そして繁殖によってその強い遺伝子を次の世代に伝えていくのです。自然淘汰の中で、強い遺伝子を受け継いだものだけが生き残り、そしてさらに強い生命力に発展させていけるものだけが又次世代に遺伝子を残していくのです。これが進化であり、こうして全ての種はその土地のウイルスに強い抵抗力と生命力を養っていくのです。この神が造った自然のシステムや生命あるものが持ちえる生命力にはどんな医療もかないません。
人間も含め動物には本来自分で病気を治す自然治癒力(自然自治能力)があります。しかし、自分ではその病気を全て治せない時があります。その時に必要な分だけ人間が手を貸すべきで、必要以上の医療行為を出来るだけ避け、自らの治癒能力を活かし高めさせてやる、そんな医療が理想なのかもしれません。
つまりワクチンも、自然に反する人工的な操作を出来るだけ省き、自然に近い形で動物の持つ免疫力を活かし、動物にとっての負担を最小限に留めておく事が出来るワクチンの方が本当は好ましいのではないでしょうか。そしてそれが我々の望む安全性にも繋がります。
我々飼い主は、確実性を求めるあまり、動物が本来持ちえている自然の力を忘れがちになってしまいます。しかし確実性とは、人工的に造られた物ではなく、全て自然の営みの中で発生するものであり、動物本来の強い子孫を残す為に生まれつき持ちえた能力、生命体の力に勝るものはありません。



「ワクチンと近年の猫の疾患との関連性」

不活化ワクチンの安全性で疑問視されているのは、死んだウイルスをアジュバント(免疫助成剤)と共に直接筋肉等に接種し体に吸収させてしまう経路にあります。通常自然界では、アジュバントの様な科学物質が体内に取り込まれる事はありません。自然に反した人工的な操作は往々にして歪みを生じさせることがあります。このような事から不活化ワクチン接種による線維肉腫(しこり)形成の可能性や、発癌性を疑う声があるのです。
個体そのものが置かれている状況や環境を考慮せず、その個体に適合していないワクチンを接種する事によって発症・発病してしまう個体もいます。そして適合していないワクチンの接種率が上がれば上がる程、ウイルス病の流行が確実に増えていくというデーター提示もあるようで、犬猫を飼う人々の密度が増えていく日本において、今ワクチン接種を考える転機に来ているのではないかと痛感せざるを得ません。
人間に飼われていた猫が捨てられ繁殖した場合が多い現代の都会の野良猫の子猫達は、田舎で代々野良猫生活をしていた猫の産む子猫に比べ、病気に感染している子が多く、全体的に生命力が弱いように思えます。これは、都会の密度や悪環境の関係による他、人工的に繁殖を繰り返されたり、様々な薬品の乱用や医療行為を繰り返していく内に、猫の自分の生命を守る能力が落ちた結果であることも理由の一因として考えられます。
動物はもともと自分である程度病気を治す事が出来る、「自然自治能力」を持っています。でも必要以上に人工的な手を加えると動物自らが持っている自然治癒能力を狂わせてしまいます。又こうして自然生態系を重視せず造られた薬品に晒された個体は、自然界では有り得ない様々な疾患を持つ事もあり、そしてその母親から産まれた子供にも、その疾患が先天性疾患として受け継がれる傾向があるのです。
哀しい人間の罪がここにもあります。
善かれと思ってやった医療行為が結果として動物の体を蝕んでしまう事になるとしたら?
自分1人位なら平気だろうと飼っていた動物を安易に捨てる、その人間達の行為が長い目で見たら動物本来の生態系を狂わせてしまう事になるとしたら?
私達みんなが生命が自然の1部であることをもう1度認識して、自然と生命、そして医療が共生していけるよう取り組んでいかなければなりませんね。そう思われませんか?




「ワクチンプログラム(外国と日本)」

アメリカでは、各々の個体に応じてワクチンプログラムを決めており、毎年接種するワクチン量が違います。生涯に1回接種の場合も状況によりあるようです。
でも日本は基本的に1年に1回で、接種量もみんな同じです。でもその子の環境や状態によって必要なものは違ってきます。日本でも1匹1匹ワクチンプログラムを考える事が出来るようになれば良いなと思います。
またワクチンは病気を完全に予防出来ると思われていますが、各々の個体の持つ体質により効果はまちまちです。ワクチンはあくまでも免疫サポートに過ぎません。
本来、体の自然の治癒能力に勝るものは無いのです。しかし、自分ではその病気を全て治せない時があります。その時に必要な分だけ人間が手を貸すべきであり、ワクチンもそのためのものと考えることが必要かもしれません。動物が持つ自然の免疫力を無視して自然に反した行ないが過多になると、いろんな歪みも生じます。ですから、本人の自然治癒能力を邪魔せず上手に活かしてやるためにも、一番罹患率の高い年代に重点的にワクチンサポートを入れるだけで充分では無いかという説も出始めました。
また、日本はワクチン売上げが病院での売上の50%を占めています。アメリカはワクチンプログラムを毎年変え同じ量を続けて接種しないので、売上は全体の10%くらいだそうです。
でも動物の位置付けが高いため、徹底的な検査に病院も飼い主もウエイトを置いており、こちらの検査費用の売上が50%あります。きちんと検査されているからこそ、各々にワクチンプログラムを考える事も可能になるのでは無いかと思います。
しかし日本は、抗体の検査機関も確立されておらず、アメリカのようなワクチンプログラムは現状では難しいかもしれません。しかし、今後、日本でも動物用ワクチンの接種率は益々向上していくでしょうから、少しずつ各々に合わせたワクチンプログラムが実現していくかもしれません。期待したいものですね。



「わかりにくかった方へ−簡単解説」

ワクチンは病気への感染を防ぐための一つの有効な手段です。
しかし、すべての子に等しく効果があるものではありません。
その子の生まれ持った体質や、免疫力により、効果は各々にまちまちです。中にはワクチンによってリスクを受ける場合もあります。
ですから、本来は各々の状況に応じてワクチンプログラム(ワクチンの接種時期や接種するワクチンの種類を計画すること)を組み立てるのが望ましいのです。
また飼い主さんも獣医さんまかせにせず、各々のワクチンの特徴と効果・リスクを知った上で、獣医さんと共にワクチンプログラムを考えていけるようになりたいものです。
リスクを知ってワクチンは怖いと思われた方もいらっしゃるかもしれません。
でもやみくもに怖がる必要も無いのです。
ワクチンの接種による副作用で死亡する確率は1万匹に1匹の割合だと言われています。実際にはもっと多いでしょうが、しかし、ワクチンを接種していなかったばっかりに病気に感染し、死亡する数の方が圧倒的に多いのも事実です。ですから上手にワクチンと付き合っていくつもりでワクチンの事や動物医療に興味を持って欲しいと思います。飼い主さんの意識向上が結果としてきっと日本の獣医療向上にも繋がるはずです。そしてなるべく自然に近い形で必要な分だけ医療を利用する・・・自然と生命と医療が共生していけるそんな世を目指していきたいものです。

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