フ ィ ラ リ ア 考 察
注釈*犬には犬特有の糸状虫症があり、牛や豚にも特有の糸状虫症があります。 本章では他の個体種特有のフィラリア症と識別するために、あえて正確に「犬糸状虫」と書いています。 犬のフィラリア(犬糸状虫)症とは、本症に罹患している蚊の吸血時に線虫の一種である「犬糸状虫(Dirofilaria immitis)」の感染子虫(ミクロフィラリア←フィラリアの子虫の事)が犬の体内に侵入する事によって感染が成立する、内部寄生虫疾患です。 犬の場合も様々な症状を呈しますが、特に心臓(右心室)や肺動脈に寄生する糸状虫の成虫によって犬は重篤な症状に陥ります。 犬のフィラリア症を撲滅しようと思えば中間宿主である「蚊」が無生息になる事ですが、それはまず不可能です。 高温多湿な我が国にっぽんでは全国的に蚊の生息は多く、特に温暖な地方に生息が見られ全国的に犬のフィラリア感染率は今や50%以上と言われています。 殺虫薬も多種多様のものが販売されていますが、フィラリア症にもステージがあり、ステージに併せ治療法及び殺虫方法を的確に選択しなければなりません。 しかしながら、フィラリア殺虫薬に限らず、ワクチンにしてもしかり、これだけ犬のフィラリア症が蔓延し予防が普及しているのに関わらず、その症例や殺虫薬に関しての知識が普及していないようです。 そこで今一度、本症を簡潔にご紹介しながら、犬のフィラリア症予防及び殺虫薬について考えてみたいと思います。
フィラリアに罹っている動物の血液中にはミクロフィラリア(フィラリアの子虫)が居ます。 そのフィラリアに罹患している動物の血液を蚊が吸血する時に、ミクロフィラリアは血液と共に蚊の体内に入り込み、その後2〜3週間の間に蚊の体内で成長し、他の動物に感染する事が出来る幼虫にまで成長します。 そしてこの蚊が犬の血液を吸血する時にその吸血口から幼虫が犬の体内に侵入し、皮膚を通りぬけて犬の体内に入り込みます。その後犬の体内で「未成熟虫」と成長し、最終寄生場所である心臓(右心室)や肺動脈に移行し、そこで成熟します。(寄生虫が成長するにつれ体の形を変え、寄生する宿主や寄生する場所を変えて行く事を「発育環」と言います。)
犬の場合も様々な症状を呈しますが、感染初期では無症状に過ごす事が多いです。寄生する虫体数が増えるにつれ、また年をとるにつれ、循環器に障害がみられるようになり、元気消失や食欲低下などの症状が出ます。フィラリア感染症初期症状としては肺うっ血のために咳をするようになりますが、重症になってくると全身性のうっ血で腹水が貯まるようになります。 このような重篤な症状は心臓(右心室)と肺動脈に寄生する成虫によってもたらされます。 ※成虫は雄で10‐20cm、雌で25-30cm位の白色の細長い素麺状のような虫体です。成虫の寿命は5、6年といわれています。
フィラリアの成虫が血管や心臓の中に居る場合に駆除すると、死んだ虫体が肺に運ばれて細い血管で詰まってしまいます。 ですから治療にあたっては「個体にどれ位の成虫数がいるか(感染比率)」や「フィラリア感染による臨床症状がどの程度進行しているか」等の個体がさらされている現状を正確に把握し治療にあたる事が非常に重要です。 フィラリア感染中程度以上の段階では、対症療法によりある程度症状を改善して から成虫体を殺虫します。 寄生虫体の数が多く重度になるまで放置しておくと、薬による殺虫駆除は出来なくなり、対症療法により症状を緩和する以外手の施しようがありません。 急性の症状が出たときに行う緊急処置としては、頚静脈からカニューレ(カンシ)を入れて外科的に取り出す方法もありますが、完全に虫体除去することは出来ません。
フィラリアに感染しないためには、とにかく中間宿主である蚊に刺されない事が一番の予防となりますが、しかし普通の生活で全く蚊に吸血されない事は室内犬であっても不可能かつ困難です。 そこで開発されたのが、犬糸状虫症に感染する期間、すなわち蚊に吸血される可能性がある期間中、連続投与し、個体に感染した直後の幼虫の段階で殺虫駆除する「感染予防薬」です。 ![]() 「ジエチルカルバマジン」、「レバミゾール」 1世代前のフィラリア予防薬です。 ジエチルカルバマジン、レバミゾールは、幼虫、ミクロフィラリアに対しては効果がありますが、成虫には効果がありません。 感染期間を通して経口投与で毎日服用する必要があるお薬です。 レバミゾールはフィラリア予防薬としてだけではなく線虫に対しする駆虫薬としても使われます。 ジエチルカルバマジンとレバミゾールはフィラリアの筋肉に作用し、これを麻痺させることによって駆虫効果をあげます。 ![]() 「イベルメクチン」、「ミルベマイシンオキシム」、「モキシデクチン」 これら3つの薬はいずれも土壌中の放線菌が作る生理活性物質で、フィラリア以外の多くの寄生虫(イヌ回虫、こう虫、鞭虫などの線虫)、さらには毛包虫などの昆虫に対しても殺虫効果を示します。 フィラリアに対しては幼虫とミクロフィラリアに効果を示しますが、通常の用量では成虫には効きません。 この薬の殺虫作用は非常に強力で、体重1kgあたり、「イベルメクチン=6μg」、「ミルベマイシンオキシム=0.5 mg」、「モキシデクチン1μg」という微量で、1ヶ月に1回の投与で確実に殺虫作用をあげます。
フィラリアに感染し、いったん心臓(右心室)と肺動脈に成虫が寄生するようになると、これを殺虫薬で駆除するしかありません。 治療における最大のポイントは寄生虫体数の少ないうちに発見し速やかに薬で駆除することです。 ![]() 「メラルソミン」、「メラルソニル」、「チアセタルサミド」 砒素を含む有機化合物で筋肉内あるいは静脈内に注射します。ミクロフィラリアや幼虫には効きません。これらの薬は成虫の栄養源であるブドウ糖の吸収を抑え、また細胞のエネルギー代謝を抑制して強い殺虫効果をあげます。 ![]() 「 ジチアザニン」 シアニン色素で、青紫色の粉末です。1週間程度経口投与します。この薬を投与している間は便が青く染まります。 ジチアザニンの使用にあたっては、ミクロフィラリアが一度に死ぬと個体は重篤なショック症状を起こすので細心の注意を払います。 ※予防薬であるレバミゾール、イベルメクチン、ミルベマイシンオキシムも高用量でこの目的のため使用されます。
個体がフィラリア症に既に感染している場合(すなわちミクロフィラリアが血液中にある場合)、殺虫薬(予防薬)を投与する事によって多数のミクロフィラリアが一度に死滅に至ります。 この時、発熱や全身のショック症状を起こし、重篤な場合になると死亡する事もあります。 これらの殺虫薬(予防薬)を投与する前には、必ず血液検査をして個体がフィラリア感染していないかどうかをチェックすることが大切です。
検査を受ける場合、夕方から夜以降の時間帯にフィラリア検査を受けた方が良いでしょう。 何故ならば、夕方以降の方が発見されやすいからです。 原因は解明されていませんが、犬糸状虫の活動が夜に活発になる為と考えられています。 |