アメリカの動物園視察から、
今後の日本の動物園を考える
− 動物園レポート −


《 は じ め に 》

子供達が大好きな動物園。
そして皆様方も子供の頃、目の前で見る沢山の動物達に目を輝かせた御記憶がおありだと思います。

しかし、いつ頃からでしょうか。
動物園の動物達を、どこかで可哀想と思うようになったのは・・・。
狭く、運動もままならないコンクリートで覆われた小さな檻の中で、何かにとりつかれたようにグルグル回り続ける動物達。
彼等の目からは輝きが失われ、その姿は私達の目に囚われの身のように映るようになりました。

元々日本において動物園は、国民の意識の中でサーカスのような見世物の感覚からスタートしました。
今までの歴史の中で、動物達の生活の質よりも、動物達を「見世物」「展示品」として潜在的に要求してきたのは誰でもなく私達国民だったのではないでしょうか。
「もっとよく見たい」という思いが優先され、動物達を結果として狭い囲いの中に閉じ込めてきてしまったのです。

しかし昨今少しずつ、自然に近い環境での飼育が叫ばれるようになり、日本においても動物園はかつての「見世物」から「種の保存のための研究や保護の場」に変わりつつあると言われます。
その背景には、動物園御関係者の、現場からの身を粉にした努力もおありだったことでしょう。
しかしそれでもまだまだ日本の動物園は全般的に、海外から見れば劣悪な環境下に動物達を「拘束」しているかのごとくの状態であることは残念ながら否めません。
土地、予算、等々、今の日本の現状という様々な壁がそれを阻んできたこともきっとあるでしょう。

しかし、そんな現状を変えていこうという声の高まりを受け、2004年環境省は、動物園やペットショップなどにいる「展示動物」の飼育基準について現行の「習性、生態を理解した適正な展示」からさらにつっこんで「動物が日常的な動作を容易に行う十分な広さや隠れ場、遊び場、水浴び場といった豊かな環境を備えた施設で飼われること」など、より具体的な表現で「動物福祉」の向上を盛り込んだ改正案をまとめ中央環境審議会動物愛護部会で28年ぶりの新基準を告示します。
(共同通信2004年1月14日の報道より)

国もやっと動物福祉の観点から動物園の動物達の飼育環境にも目を向けてくれるようになり、こうして関係者に改善を呼びかけたことによって、今後は全国の動物園で「より自然に近い」飼育に向けての努力がなされることが期待されます。

しかし、そもそも動物園が必要なのか、という疑問もあります。
これだけ映像文化が進化して世界中どこの様子も自宅にいながらにしてテレビやパソコンを通じ見ることが出来るのです。
自然のままの姿をその場に行くことなく目にすることが出来る時代にあえて、動物達を本来の生息地から遠く離し、本来の生態系と異なる環境に置くことが果たして必要なのか、いずれはその討議が全世界で真剣になされる時が来るべきと思いますが、現時点では、まだそこまでも機が熟してはおらず、現実問題として、今すぐ動物園を無くすという訳にはいかないことも又事実です。
ならばせめて、飼育環境の改善・向上を行いながら、各々の動物達が各々の生態にあった、より自然に近い形で生きている姿、それこそが動物達の真の姿であり1番美しい姿であることを私達1人1人がまず理解していくことが何より大切なのではないでしょうか。
日本においても私達国民が動物園への意識を変えない限り、いくら御関係者の努力があっても、私達の意識こそが何よりもの壁となってしまうでしょう。

いつか将来的に、映像ではなく実際にその目で見たい人は、「人間がその場まで出向く」という発想が自然になっていけば、私達は動物達のあるべき真の姿を見ることが出来るだけでなく、動物達の置かれている環境の破壊問題なども知ることが出来、これからの動物達と人間の関係を考えていくことにも繋がっていくと思います。
そしていつか現在の動物園が、海外に多く存在する、傷ついた野性動物の保護や治療を行う場、つまり、リハビリセンターのような役割の施設・機関として「見世物」から「保護」の場となっていくことを望みたいと思います。

これからは動物と人間の新しい関係を築いていかなければならない時代です。
動物園という存在を私達が考えていく上で、今後の参考になるかもしれない1つの事例をこれから御紹介致します。
アメリカでも「小さな動物園」と言われるユタ州のホーグル動物園の取り組みは、「狭い日本」の動物園においても何かの指針となってくれるのではないかと思います。
当会スタッフが現地に視察に行って参りました。
そのレポートを御紹介致します。
皆様お1人お1人が私達と共にこれからを考えて下されば幸いです。




アメリカ・ユタ州動物園レポート

2003年、夏。私はアメリカ・ユタ州にあるホーグル動物園(Utah's Hogle Zoo)
を視察してきました。
そこは「とても小さな動物園」だと聞き、私は小さな檻に入った動物達を想像していました。

滞在中、いつもアメリカの雄大さには驚きの連続でした。 その「とても小さな動物園」も例外ではありませんでした。 ホーグル動物園は1周するのに、早く歩いて2時間ほどかかる、日本人感覚で言うところの「大きな動物園」だったのです。 確かにカリフォルニア州南部にあるサンディエゴ動物園は1周しようとすれば2日ほどかかるそうで、確かにそれと比べると「とても小さな動物園」ですが…。

シマウマさん土地が広く、動物たちも広々とした柵の中で遠くにいるのがわかりました。 カメラの望遠を使っても小さく写るだけ。 木に隠れて見えないものもたくさんいました。 柵の中は草木で覆われ、小川が流れています。 サル達が遊んで走りまわり、遊具で遊んでいました。 木陰で寝転んでいるカンガルーの隣の池で、黒鳥が水浴びをしています。 草食同士なら同じ柵のなかで飼育されているものもあります。 柵の中には大きな木があり、動物たちはその木陰でだらだらと昼寝をしているものもいます。 もとの地形をそのまま利用し、フェンスだけ張ったようなものもあります。 リスに至っては、野生です。 歩いていると目の前を横切って、動物園内の雑木林に駆け込んでいきます。 その早いことといったら!驚いていると今度はガチョウが目の前を歩いています。 飛んでいってしまわないので、動物園内の通路で出会うこともあるようです。 アヒルもまた、動物園を散歩しているのかもしれません。

日本の動物園では間近で見ることができたレッサーパンダも遠くの木の股から後ろ姿が見えるだけ。 しっぽでレッサーパンダだとわかる程度です。 けれど、柵には写真が貼ってあり、そこに何がいるのかはわかります。 私はそのレッサーパンダの生活のほんの一部を見ただけです。 それは期待はずれでもあり、期待以上のものでもありました。 野生動物がいつでも丸見えで生活しているわけがないのです。 ぬいぐるみのように愛くるしくても、ぬいぐるみと違って生きているのです。 野生では天敵に襲われることもあるでしょうし、動物はそれぞれの特性を生かして自然の中で生きているのです。 いつでも顔を見ることができるのだとしたら、それは「不自然」なことなのです。

黒鳥とカンガルーさん 動物を本来の生息地に限りなく近い環境で飼育すれば、当然、教育機関として子供たちが動物園に来た時に、動物が見えないこともあるでしょう。 けれど子供たちはそんな動物園だって大好きになってくれるはずです。 なぜなら、子供たちは「遊び」の天才だからです。 子供たちにとって楽しめる要素を取り入れることができたら、よりよい環境で、動物の生態を守ったまま、子供たちの教育と、そして何よりも動物を愛する心を学ぶ事ができるはずです。

たとえばこんな動物園はいかがでしょう。想像してみてください。
動物園の入り口で園長さんが入場券の代わりに、子供たちに双眼鏡と地図、それに探検隊員の帽子を渡します。そして園長さんはこう言いました。
「みんなを今から探検隊の隊員に任命します。この動物園に潜んでいる動物たちを探してください。」
子供たちは探検隊などのゲームが大好きです。歓声を上げて動物のいる場所へ走っていきました。 大きな動物、小さな動物、見つかりやすい動物、なかなか見つけられない動物、子供たちは真剣に双眼鏡で覗き込んでいます。 動物が見つかったら、地図にその動物のシールを貼っていきます。 見つからなくても、後で園長さんが子供たちにはっきりと映った写真やポストカードをくれます。 どんな場所で、どんな風に、その動物たちが暮らしているのか、子供たちの目が驚きと好奇心で、きらきらと輝いています。
「ここの動物はすごく見つけにくいんだって。」
「すごいねぇ、忍者みたいだね。」
見つからなくても子供たちは嬉しそうです。
「ほら、見て、ナマケモノがぶら下がってる!」
「うわぁ、すごーい!」
子供たちは双眼鏡を覗き込み、初めて見るナマケモノを一生懸命観察しています。 そして嬉しそうに地図を広げてシールを貼り付けました。

探検が終わると、入り口で園長さんが聞きました。
「みんな、どんな動物がいたかな?」
子供たちは口々に報告します。
「僕はね、シマウマを全部数えたよ!」
「それはすごいね!シマウマは群で固まっていると、縞々が混ざって数えにくいんだ。だからライオンとかが襲いにくくなるんだよ。」
園長さんが子供達に少し詳しく教えてあげます。 子供達も自分の興味を持ったことに対して教えてもらったことなので、すぐに覚えてしまいます。
「ライオンがおなかを上にして寝てたよ。」
「サルが2匹で遊んでた。」
園長さんはみんなの報告を聞きながら頷きました。
「みんなよく見つけられたね。」
園長さんはそういうと、数名の子供たちを呼び出しました。 今回、発見しにくかったレッサーパンダを見事発見した子供たちに、特別動物博士賞が送られました。 動物たちの写真入のメダルです。 ほかの子供たちにもそれぞれ、今回見つけられなかった動物たちのポストカードが配られました。
「今日はどうだったかな?今度きたときはまた別の動物を発見できるといいね。」
園長さんはそう言って子供たちを送り出しました。
「お父さん、お母さん、今度は僕も博士賞もらうんだー。」
その男の子はそう言って嬉しそうに両親に動物たちの写真を見せました。
「そうだね、今度は他の動物達も発見できたらいいね。 じゃあ今日はお父さんが特別動物博士助手賞をあげよう!」

子供達は冒険が大好きです。 こうやっていろいろな動物達の、本来の姿を自分の目で確かめることが出来れば、より一層子供達の興味は増すでしょう。 檻の中でやることもなく、不自然に同じところを行ったり来たりを繰り返す動物を見せられる子供達とその動物達、本来の姿でたくましく生きる動物達と、その姿を真剣に探す子供達。
どちらの動物達と子供達の目が輝いているでしょうか。
どちらのほうが、動物達や子供達にとって幸せなことでしょうか。

まるでどこかの森やジャングルに入っているかのような動物園…それは動物達にとっても、私達人間にとっても、自然の一部になれるすてきな場所になることでしょう。 確かにアメリカと違って日本は狭いです。 動物園に当てることが出来る場所も限られているでしょう。 しかし、本当に子供達に見せたいのは、自然の中での生活から切り離した動物よりも、自然の中で本来の生き方をしている動物であり、図鑑だけではわからなかった本物の動きです。 それによって子供達は自分から何かを発見する喜 びを得、いろいろなことに興味関心や探究心を持つことができるようになるのではないでしょうか。 子供の夢を育むことのできる動物園は、種類が少なくても本来の姿で子供達と接してくれる動物のたくさんいる動物園ではないかと思います。

(アニマルズ&ネイチャーセクション スタッフ:磯野ユキ)



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